※今回は非常に面白いです。データで語られるのが大好きな人にはもってこい。私の勝手な考察はあまり含まず、最新の研究から出た事実を示しています。
本論①Fintechによるクレジットアクセスの拡大
1‐3. 融資審査テクノロジーの研究
前項で述べた、クレジットギャップを埋める役割を期待されているのがFintechである。
Fintechはデータドリブンな融資審査により、そのプロセスを効率化、合理化する事が出来るとして注目を集め、独自のクレジットスコアを算出して融資サービスを提供したり、金融機関と組んで、融資を拡大している。
(参考:FINTECH LENDING: FINANCIAL INCLUSION, RISK PRICING, AND ALTERNATIVE INFORMATION)
第一に、貸す側にとっては、人の介在を減らす事でオペレーションを効率化、高速化したり、審査の精度を上げる事が出来る。これにより、単位当たりの融資の数を増やしたり、デフォルト率を下げる事が出来る。
第二に、借りる側にとっては、融資審査に関して、クレジットヒストリーだけでなく、各種料金の支払い状況やECサイトの購入履歴、通話・メールの履歴、SNSのデータなどソフト情報も含めたいわゆるビッグデータを活用してもらえる。これにより、従来と異なる基準で算出したクレジットスコアに基づいて、Unbankedの人々でもクレジットアクセスを獲得出来る可能性が出てきた。
クレジットアクセス拡大に関する定量的な検証
Jagtiani(2017)は、アメリカで、最も大きいP2P lendingを行うFintech企業「Lending Club」と、伝統的なFICOスコア、ないしそれを使って融資を行う銀行のデータを用いて、Fintechによるクレジットアクセス拡大の様子を定量的に検証している。
本研究では、クレジットアクセスの拡大の証拠として、いくつかの事実を示している。
銀行のサービスが届かない層に融資を拡大
・「Lending Club」の借り手は、貸付を受ける平均の人々に比べて、家を持っている人が少なく、DTI(Debt-To-Income)が高い。
これより、伝統的な与信の基準では貸付が出来なかった人に対しても、Lending Clubは貸出しを行っている事がわかる。
・銀行の支店の少ない所にもユーザーを多く抱えている。
※HHI:Herfindahl-Hirschman index(その市場の企業競争の度合い)
・年々、銀行が支店を撤退させている所のユーザーを増やしている。
こうした定量的なデータは、リスクが高かったり、利益を出しにくい土地であったりするなど、従来は銀行がリーチできていない市場に、Fintech企業の「Lending Club」が入り込み、融資を行っている事を示している。ここから事実として銀行口座を持たないUnbankedの人々に対してクレジットアクセスが拡大されていることがうかがえる。
Fintechのクレジットスコアはより独立的になり、かつ精度が高くなっている
上記のようなクレジットアクセスの拡大のカギとなるのは、融資審査テクノロジーである。Jagtiani(2017)は、さらに、その基盤である独自のクレジットスコアについて詳細に分析している。以下、その報告された中でポイントとなるクレジットスコアの現状を抜粋する。
・FICOのクレジットスコアと「Lending Club」のグレード、またそれぞれがカバーする顧客の相関関係は年々低くなっている。


これより、Fintechのクレジットスコアは伝統的なクレジットスコアに対してより独立的な指標となっていき、それによって融資を受ける人の範囲が拡大している事が分かる。融資判断は基本的にスコアに従ってなされるので、スコアの相関関係が低くなっているという事は、従来FICOスコアが低くて融資を受けられなかったが、「Lending Club」では融資を受けられる評価を持つ人が増えているのだ。
非伝統的なクレジットスコアは精度も高い
では、FICOスコアと「Lending Club」のグレードが異なり、それによって顧客層も変化しているが、その精度は担保されているのだろうか?独自のスコアに従って顧客層を広げ、返済能力の低い人々に貸し出している事はないのだろうか?
・グレード(リスク評価)と実際のデフォルト率は綺麗な相関関係を描く。


これより、ビッグデータを用いた非伝統的なクレジットスコアが、伝統的なクレジットスコアと異なる人に貸付を行っているにも関わらず、十分に正確な融資審査を行えていて、その精度は年々向上している事が分かる。
ソフトデータの有用性
独自のクレジットスコアの算出に際して、各企業がどのようなデータを使い、どのようなアルゴリズムを組んでいるかは、企業秘密である事が多く、その技術的な詳細に関しては、本研究でも調査に限界があった。「Lending Club」も同様に、利用するデータの種類や算出のアルゴリズムは未公表である。
その中で、ソフトデータの有用性を検証した研究も出始めている。
Duarte, Siegel, and Young (2012) は、同じくアメリカのP2P lendingサイトである「Prosper」のデータをもとに、応募者の借り手の外見が調達達成度やクレジットスコア、デフォルト率にどのような影響を与えるかを調べた。
「外見の信用度の高さ」は、AmazonのMechanical Turkというサービスで雇った複数人の人が3000以上の借り手の写真を見て、1.信用度(Trustworthiness)を5段階で評価し、2.10ドル貸した時に帰ってくる可能性を10段階で評価する事で測られた。
その結果、外見の信用度が高い人ほど、クラウドファンディングで資金調達を達成しやすい事が示された。さらに、期待値だけでなく、現実に、外見の信用度が高いとされた人ほどクレジットスコアも高く、実際のデフォルト率が低い、という結果となった。
(出展:https://academic.oup.com/rfs/article-abstract/25/8/2455/1570804?redirectedFrom=fulltext)
このように、従来使われてきた過去の履歴などハードデータに加え、外見などのソフトデータも活用出来るようになってきており、こうしたありとあらゆるデータを人工知能のアルゴリズムに組み込んで学習させる事で、新しいクレジットスコアが算出されるようになる。
これによって、過去のクレジットヒストリーのないUnbankedの人々も、その他のデータの活用で判断された非伝統的なスコアによって良い評価を得て、クレジットアクセスを獲得する事が出来る可能性が出てきた。こうした技術は今日まさに日進月歩で進んでおり、従来リーチできていなかった層にクレジットアクセスを拡大したり、融資の精度やスピードを上げる点で、さらなる発展が期待されている。
しかし、ここで私は、重要な疑問を問いたい。
こうした新たにクレジットアクセスを獲得した人々は、一体どのような人なのだろうか?つまり、Fintechのサービスが届いている対象はどんな層の人なのだろうか?
Fintechの輝かしい技術進歩の最前線を理解するともに、それが現実に与えている影響を精査するために、実際にフィリピン、インドネシア、シンガポールの融資審査テクノロジーを扱うFintech企業を訪問した。
次の項では、現地のFintech企業におけるヒアリングと、その他の学術的な研究をもとに、Fintechがリーチする対象についての仮説を検証する。
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