クレジットアクセスの拡大は所得を増加させるか?<卒論・本論2-3>

本論②クレジットアクセスの拡大→ケイパビリティの向上

1.クレジットアクセスの拡大が、所得を増加させるか?

一般的に、マイクロクレジットは、人々が所得活動に投資を行う事で所得が増加し、経済的なコントロールを高めるとされている。(Tseng 2011)

しかし、実際にマイクロクレジットによって、ビジネスで利益を生み出して所得を拡大するかについて、研究結果は肯定意見と否定意見が混在している。

Hulme and Mosley(1996)

マイクロクレジットの所得へのインパクトを示す研究として、初期のもので最もよく引用されているのは、Hulme and Mosley(1996)の研究である。彼らは、1989年から1993年の間に、所得、資産、インフラへのアクセスが同じレベルの人々を対象に、ランダムに選んだ150人のマイクロローンの借り手と150人の非借り手のグループを比較した。
その結果、インドネシアでは10-12%、インド、バングラデッシュでは約30%の割合で、マイクロローンを受けた貧困層の所得が増加した事が報告された。

一方で、同研究は、借り手の経済レベルが、マイクロローンのインパクトを大きく左右するという重要な発見を報告した。つまり、貧困ライン以上の借り手は収入を大きく増加させたのに対し、貧困ライン以下の最貧困層は平均すると収入はごく小さい増加もしくは減少を記録した。


(図は研究評論Financial Sustainability, Targeting the Poorest, and Income
Impact中より)

セレクション・バイアスの問題

一方で、マイクロクレジットに関する多くの研究はセレクションバイアスを指摘される。 (Karlan 2001, Armendáriz & Morduch 2005; Roodman & Morduch 2009; Karlan & Zinman 2010; Banerjee, Duflo, Glennerster and Kinnan 2009; Alexander-Tedeschi and Karlan 2007).

例えば、Armendáriz and Morduch (2005: 223)は、「マイクロファイナンスプログラムの中で、ランダムに人々に貸し出す機関はなく、貸し手は活動地域や借り手を慎重に検討し、選び抜いている。例えば、借り手はより起業家精神にあふれていたり、ビジネスの人脈があったり、集中力があったりするなど、顧客を顧客たら占めるものについて検討の余地がある」と指摘する。

Banerjee 2009

この中で、Tseng(2011)は、こういったセレクションバイアスを考慮した研究は彼が論文を執筆していた時点で2つある、という。

そのうちの1つが、Banerjee(2009)のインドのハイデラバードにおける研究である。ここで明らかになったのは、もともと利益を出していた借り手は、マイクロファイナンスによって利益を拡大したが、そうでない借り手は利益を増加させる事はなかった事である。

下の表を見ると明らかな通り、利益の多いトップ5%の層はマイクロファイナンスプログラムによって利益を増加させたが、5%から95%の人は利益の増加がなく、ミディアンを取ると、利益は下落、雇用者数も少なくなっていた。

Kondo et al. (2008)

同様に、Kondo et al.(2008)も、フィリピンにおけるマイクロファイナンスプログラムのインパクトを検証した研究において、もともとの所得水準が高い家庭ほど、マイクロクレジットによって所得を増やし、所得水準が低かった家庭は、マイクロクレジットによる所得増加はほとんど見られなかったり、あるいはマイナスであった。

こうした研究から導き出される1つの結論として、もともと利益のある層の人々にとってマイクロファイナンスは所得を増加させる効果があるが、それ以外の人々にとって有意な効果は得られず、むしろ悪化させる可能性を持つという事が導き出された。

クレジットアクセスの所得増加効果に関する結論

結論として、「マイクロクレジットが所得増加につながるか」という問いに対する重要な示唆は、「経済水準の高い人ほどクレジットアクセスの拡大によってビジネスを成功させて所得を拡大する可能性が高く、貧困層に対してはクレジットアクセスそのもののポジティブなインパクトはあまり期待できない」という事である。

ケイパビリティの1つ目である所得に関しては、「経済水準の高い人ほどクレジットアクセスで所得ケイパビリティを向上させやすく、貧困層ほど難しい」という事が言えよう。よって、貧困層に対しては単なる融資だけでなく、違ったアプローチが必要になってくる事が考えられる。この点については、次節以降でも詳しく述べるつもりだ。

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