アマルティア・セン「ケイパビリティ・アプローチ」とは<卒論・本論2-1>

本論2 クレジットアクセスによるケイパビリティ向上

テクノロジーの途上国開発への貢献について、前項までは、第一段階としてFintechによるクレジットアクセス拡大の様子について、現地Fintech企業へのヒアリングと先行研究の示唆をもとに検証した。

しかし、クレジットアクセスの拡大をもって、途上国開発に貢献しているというのは飛躍があるだろう。では、途上国開発への貢献とは何なのか?究極的には、「人の幸せ」に結びつくことである。では「人の幸せ」とは何か?それは、所得やGDPといった経済指標では測れない。経済学者のアマルティア・センは人間の幸福度をより多角的にとらえる1つの方法として、善き生を「自由」と結び付けて考える「ケイパビリティ・アプローチ」を提唱した。そこで、本論文では、彼のアプローチを取り入れて、「途上国開発への貢献」を「ケイパビリティの向上」として考える。

第一段階でFintechによるクレジットアクセス拡大について検証したので、以下、第二段階として、「ではそのクレジットアクセスの拡大が、どのようにケイパビリティ向上につながるのか」を検証する。この2段階の検証をもって、テクノロジーがどのような形で途上国開発に貢献するのかについての1つの示唆を提示したいと思う。

第二段階のクレジットアクセスの拡大によるケイパビリティ向上についての検証は、マイクロファイナンスをケイパビリティ・アプローチの文脈で考察する先行研究の結果を参考に行う事とする。

まず、マイクロクレジットがケイパビリティ向上に結び付くまでのPathwayを明らかにし、その上で、検証すべき項目を決定する。その上で、1つ1つの検証項目について、様々な学術研究と実社会の例を参考にしながら検証し、最終的なケイパビリティ向上に関して示唆を提示する事にする。

ケイパビリティ・アプローチとは

経済学者・倫理学者であるアマルティア・セン(Sen, Amartya 1933−)は、人間の幸福は経済的尺度だけでは測れないとして、善き生を「自由」と結び付けて考える「ケイパビリティ・アプローチ(Capability Approach)」を提案した(江川 2006)。

インドのベンガルに生まれたセンは、9歳の時に経験したベンガル大飢饉などの記憶などをもとに「インドはなぜ貧しいのか」という疑問から経済学者になったといわれる(Wikipedia)。

その実体験に基づく感覚から、1970年代頃から不平等や貧困に関する従来の指標を批判し、論文「何の平等か?(Equality of what?)」(1979)の中で「基本的ケイパビリティ(basic capabilities)の平等」という概念をうち出した。

センは、人の「善き生を判断するのに、その人のもつ財および財の特性を分析するだけではできない」として、人の「機能」’functionings’ of persons)にまでたち返らなければならないとし、人が達成しうる機能のさまざまな組合せの集合を「ケイパビリティ(Capabilities)」と定義した。(江川 2006)

セン(1985)は“A functioning is an achievement of a person: what he or she manages to do or to be.”と表現し、すなわち、人の「機能」とは、財や資源を用いて選択的に実現する人の行ないや在りようについての精神の働きであり、そして、その機能の組合せの集合が「ケイパビリティ」であるという。(江川 2006)

この人間の「機能」には、適度な栄養状態にあること、健康であることなど基本的なものから、自尊の達成、共同体の生活への参加、幸福な複合的なものまで含まれるとされる(江川 2006)。さらに、これらをどれくらい重視するかは、個人によって大いに異なる(Sen 1990)とされ、人間の多様性まで考慮に入れた指標となっている。

つまり、善き生の実現について、数値的な財や資源に注目するのではなく、現実の生活に焦点を当て、人間の「機能」の集合体としての「ケイパビリティ」という概念を導入し、善き生を実現する‘手段’に着目しているのである。

この上で、センは途上国開発の本質を「個人のケイパビリティ・自由を向上する事」とし、貧困は「不自由の1形態」であるという。この意味でセンは「貧困」の再定義、「途上国開発」の目指す所として新たな方向性を示唆しており、実際に、センのケイパビリティ・アプローチの概念は、厚生経済学の他、国際機関の方向性にも影響を与え、国連開発計画(UNDP)の人間開発指標(HDI)に反映されている。(江川 2006)

 

今回、本論文でもこのケイパビリティ・アプローチの手法を採用し、マイクロクレジットをケイパビリティ・アプローチの視点で検証する事で、最終的なテクノロジーの途上国開発への貢献に関する考察へとつなげる。

 

(写真は、ベトナム・チャム島)

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